「理学療法士を辞めたい」。そう感じながらも、「せっかく資格を取ったのに」「周りに迷惑をかけるかもしれない」と、誰にも言えずに悩んでいる方は少なくありません。辞めたいと感じること自体は、決しておかしなことではありません。大切なのは、その気持ちの正体を整理し、自分にとって後悔のない選択をすることです。この記事では、理学療法士が辞めたいと感じるよくある理由と、「残る」「職場を変える」「異業種に挑戦する」のどれが合うかを見極める判断基準を紹介します。辞めることを勧める記事ではなく、考えを整理するための記事として読んでいただければ幸いです。

理学療法士を辞めたいと感じるのは珍しいことではない

元PTのアドバイザーとして多くの相談を受けるなかで感じるのは、「辞めたい」という気持ちを抱える理学療法士は決して少数派ではない、ということです。真面目に患者さんと向き合ってきた人ほど、理想と現実のギャップに悩みやすい面もあります。

ここで最初にお伝えしたいのは、「辞めたい」と「辞めるべき」は同じではないということです。辞めたいという気持ちは、何かを変える必要があるというサインです。ただ、変えるべきものが「職種」なのか、「職場」なのか、「働き方」なのか、あるいは「一時的な状況」なのかは、人によって異なります。

理学療法士が辞めたいと感じるよくある理由

給与・将来の収入への不安

経験を積んでも給与が大きく伸びにくい、と感じる人は少なくありません。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、「理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士」(4職種の合算、10人以上の事業所)のきまって支給する現金給与額は月31万1,400円、年間賞与その他特別給与額は70万4,700円で、年収に換算すると約444万円です。なお、これは理学療法士単独の値ではありません。

結婚や子育て、住宅購入などのライフイベントを考えたときに、将来の収入に不安を感じることが、辞めたい気持ちにつながるケースがあります。年収の考え方については理学療法士の平均年収のデータ解説も参考にしてください。

職場の人間関係

上司や同僚、他職種との関係に悩むケースも多くあります。チームで動く仕事だからこそ、人間関係のストレスが日々の働きやすさに大きく影響します。

業務量・体力的な負担

1日の単位数のノルマ、書類業務、休日の勉強会や研修など、業務量の多さに疲れを感じる人もいます。患者さんの移乗介助などで、身体への負担を感じることもあるでしょう。

キャリアの先が見えない

「この先、何年働いても同じ仕事が続くのでは」「管理職のポストが限られていて昇進のイメージが持てない」といった、キャリアの見通しへの不安もよくある理由です。

資格保有者が年々増えていることも、こうした不安の背景にあるかもしれません。内閣府『障害者白書』(令和8年版)によると、理学療法士の資格登録者数は2025年12月末時点で236,289人です。また、厚生労働省の理学療法士・作業療法士需給分科会(2019年4月)では、理学療法士・作業療法士の供給数が2040年頃に需要数の約1.5倍になるという需給推計(案)が示されています。

やりがいを感じにくくなった

患者さんの回復に関われることにやりがいを感じて理学療法士になったものの、業務に追われて一人ひとりと向き合う余裕がない、思うような成果が出せないといった理由で、やりがいを見失ってしまうこともあります。

後悔しない判断のために:悩みを3つに分けて考える

辞めたい理由が分かったら、次はその悩みが「何を変えれば解決するのか」を考えます。大きく次の3つに分けると整理しやすくなります。

悩みのタイプ 例 解決の方向性
今の職場の環境が原因 人間関係、職場の方針、業務量、評価のされ方 同じ職場で役割や部署を変える、別の病院・施設に移る
臨床という働き方が原因 体力的な負担、働く時間帯、収入の仕組み 施設系の別の領域に移る、企業系の仕事を検討する
一時的な状況が原因 繁忙期、心身の疲れ、プライベートの変化 休息を取る、周囲に相談する、時間をおいて再検討する

たとえば人間関係が主な理由であれば、別の職場に移ることで解決する可能性があります。一方で「臨床そのものより、別の形で医療に関わりたい」という思いが強いなら、異業種も視野に入ってきます。

判断のためのセルフチェック

次の問いに答えてみると、自分の悩みのタイプが見えやすくなります。

  • 職場が変われば、理学療法士の仕事を続けたいと思えるか
  • 今の仕事で、まだ好きだと思える部分はあるか
  • 辞めたい気持ちは、特定の出来事や時期をきっかけに強くなったか
  • 5年後も今と同じ働き方をしている自分を想像できるか
  • 体調や睡眠に影響が出ていないか

最後の問いに当てはまる場合は、判断よりもまず休むことを優先してください。心身が疲れているときは、物事を悲観的に捉えやすく、冷静な判断が難しくなります。必要に応じて医療機関や職場の相談窓口に相談しましょう。

気持ちを整理する書き出しワーク

頭の中だけで考えていると、同じ悩みがぐるぐると回りがちです。紙やスマートフォンのメモに、次の順番で書き出してみてください。

  1. 辞めたいと感じた具体的な場面(いつ、どこで、何があったか)
  2. そのとき感じた気持ち(疲れた、悔しい、不安、むなしいなど)
  3. 今の仕事で好きなこと、続けたいと思える部分
  4. 理想の働き方(働く時間、収入、人との関わり方、やりがい)
  5. 理想と今の状態のギャップは、何を変えれば埋まりそうか

書き出してみると、「辞めたい」の中身が意外と具体的な一部の不満だったと気づくこともあれば、「やはり働き方そのものを変えたい」という思いがはっきりすることもあります。どちらの気づきも、次の一歩を考えるうえで大切な材料です。

リハノビキャリアで使っているバランスホイールのように、仕事、収入、健康、家族、学びなど人生の領域ごとに満足度をつけてみる方法も、自分が何を大切にしたいのかを見える化するのに役立ちます。

「辞めたい」と感じたときの選択肢

選択肢1:今の職場で働き方を変える

辞める前に、今の職場でできることがないか検討してみましょう。

  • 上司に業務量や担当領域について相談する
  • 部署や病棟の異動を希望する
  • 委員会や教育担当など、新しい役割に挑戦する
  • 認定資格の取得など、専門性を深める目標を持つ

環境を少し変えるだけで、気持ちが前向きになることもあります。臨床の中でのキャリアの広げ方は、理学療法士のキャリアアップ方法で詳しく紹介しています。

選択肢2:医療・介護の中で職場を変える

職場の環境が主な原因であれば、別の病院や施設に移ることで解決する可能性があります。急性期から回復期へ、病院から訪問リハや老健へなど、領域を変えることで、働き方や患者さんとの関わり方が大きく変わることもあります。

病院以外の施設系の職場については、理学療法士の資格・経験が活かせる病院以外の仕事で整理しています。

選択肢3:異業種に挑戦する

臨床という働き方そのものを変えたい場合は、異業種への転職も選択肢になります。医療機器メーカーのカスタマーサクセスや福祉用具の営業、人材・キャリア支援、ヘルステック企業の企画など、理学療法士の経験を活かせる仕事はあります。

ただし、未経験からの挑戦になるため、入社時の年収が一時的に下がる可能性や、新しいスキルを身につける負担もあります。メリットとデメリットの両方を理解したうえで検討しましょう。詳しくは理学療法士の異業種転職ガイドをご覧ください。

選択肢4:いったん休む・時間をおく

すぐに結論を出さず、休暇を取ったり、働き方を一時的に調整したりして、時間をおくことも立派な選択です。疲れが取れてから考え直すと、違う答えが見えてくることもあります。

辞める前にやっておきたい準備

辞めると決めた場合も、勢いで退職するのではなく、次のような準備をしておくと後悔しにくくなります。

経験の棚卸しをする

これまでの経験を振り返り、どんな患者さんを担当し、どんな工夫をして、何を大切にしてきたのかを書き出しましょう。この棚卸しは、次の職場を選ぶときにも、応募書類を書くときにも役立ちます。

生活費の見通しを立てる

退職後の収入や、転職先の給与が変わる可能性をふまえて、どの程度の期間生活できるかを確認しておきましょう。可能であれば在職中に転職活動を進めると、焦らずに判断できます。

理想の働き方を言葉にする

「辞めたい」という気持ちは、今の状態から離れたいという方向性を示すものです。それに加えて、「どんな働き方をしたいのか」「どんな人生を送りたいのか」を言葉にしておくと、次の選択がぶれにくくなります。考え方の詳細は理学療法士のキャリアプランの立て方を参考にしてください。

円満な退職を心がける

退職を決めたら、職場の規定を確認し、余裕を持って上司に伝えましょう。担当患者さんの引き継ぎを丁寧に行うことは、これまでの仕事への誠実さの表れでもあります。医療・介護の業界はつながりが多いため、円満に退職しておくことは将来のためにもなります。

信頼できる人に話してみる

考えを整理するうえで、誰かに話すことも効果的です。職場の同僚には話しにくい場合は、職場の外にいる友人や家族、養成校時代の同級生、キャリア相談の専門家など、利害関係のない相手を選ぶと本音を話しやすくなります。話しているうちに、自分でも気づいていなかった気持ちが言葉になることがあります。

周囲の声に振り回されない

「せっかく資格を取ったのにもったいない」「どこに行っても同じだよ」といった周囲の声に、気持ちが揺れることもあるでしょう。身近な人の意見は参考になる一方で、その人の価値観や経験にもとづいたものです。最終的に働くのは自分自身なので、意見は材料のひとつとして受け止め、自分が何を大切にしたいかを軸に判断することが大切です。

辞めるタイミングを考える

辞めると決めた場合でも、時期は慎重に考えたいところです。賞与の支給時期、担当患者さんの退院や引き継ぎの区切り、職場の繁忙期、転職先の入社時期などをふまえて、自分にも職場にも負担の少ないタイミングを選びましょう。退職の申し出時期は就業規則で定められていることが多いので、早めに確認しておくと安心です。

辞めた後に後悔しやすいパターン

相談の場でよく耳にする、後悔につながりやすいパターンも知っておきましょう。

  • 辞めたい理由を整理しないまま転職し、次の職場でも同じ悩みにぶつかる
  • 収入の見通しを立てずに退職し、焦って次の職場を決めてしまう
  • 「臨床が嫌」だと思っていたが、実は特定の職場環境が合わなかっただけだった
  • 理学療法士の仕事の好きな部分まで手放してしまい、物足りなさを感じる

逆にいえば、辞めたい理由と自分が大切にしたいことを整理しておけば、どの選択をしても納得感を持ちやすくなります。

まとめ

  • 理学療法士を辞めたいと感じるのは珍しいことではなく、何かを変える必要があるというサイン
  • よくある理由は、給与、人間関係、業務量、キャリアの見通し、やりがいなど
  • 悩みを「職場の環境」「臨床という働き方」「一時的な状況」に分けて考えると判断しやすい
  • 選択肢は、今の職場で働き方を変える、別の職場に移る、異業種に挑戦する、いったん休むなどさまざま
  • 心身の不調があるときは、判断よりも休息を優先する
  • 今の職場に残る、臨床を続けるという選択も正解のひとつ

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参考資料