理学療法士からヘルステック企業への転職は、臨床経験を「現場を知る人材」として活かせる選択肢です。ヘルステックとは、デジタル技術を使って医療・介護・健康づくりの課題を解決するサービスや製品の総称で、リハビリや介護の現場、予防や運動支援など、理学療法士の専門と重なる領域が数多くあります。職種としては、カスタマーサクセスや導入支援、事業企画の補助、臨床監修などが代表的です。一方で、未経験の壁やスタートアップならではの不安定さもあるため、良い面と注意点の両方を理解して判断することが大切です。この記事では、理学療法士がヘルステック転職を考えるときの全体像を具体的に解説します。

ヘルステックとは?理学療法士に関係の深い領域

ヘルステック(HealthTech)は「Health(健康)」と「Technology(技術)」を組み合わせた言葉です。明確な定義が一つに決まっているわけではありませんが、一般的には、アプリやクラウドサービス、センサー、データ分析などを活用し、医療・介護・健康分野の課題を解決する取り組みを指します。

理学療法士の経験と特に関係の深い領域には、次のようなものがあります。

領域 主なサービスの例 理学療法士の経験が活きるポイント
リハビリ・介護DX リハビリ計画書や記録の作成支援、介護記録、請求、スケジュール管理のクラウドサービス 現場の業務フローや書類の負担を知っている
遠隔モニタリング 在宅や施設での活動量・バイタル・歩行などの見守り、オンラインでの経過確認 どの指標が臨床的に意味を持つかを判断できる
予防・運動支援アプリ 腰痛・肩こり対策、転倒予防、高齢者の運動習慣づくり、オンライン運動指導 運動処方とリスク管理、続けてもらう工夫
健康経営支援 企業の従業員向け健康プログラム、姿勢改善や運動のセミナー、健康データの分析 働く世代の身体の不調への対応、集団指導の経験
医療機器・デジタル医療 リハビリ支援機器、動作解析・計測機器、医療機関向けのソフトウェア 機器の臨床での使われ方と評価の視点

経済産業省は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に取り組む「健康経営」を推進しており、優れた取り組みを行う法人を認定する「健康経営優良法人認定制度」も設けています。企業が従業員の健康づくりに取り組む流れは、健康経営支援サービスの需要の背景のひとつといえます。

また、厚生労働省は、病気の診断や治療などを目的とするソフトウェア(プログラム)のうち一定のものを「医療機器プログラム」として医療機器の規制の対象としています。ソフトウェアそのものが医療機器になり得るという点は、デジタル医療の分野を理解するうえで押さえておきたいポイントです。

理学療法士がヘルステック企業で担う主な職種

理学療法士がヘルステック企業で働く場合、エンジニア以外のさまざまな職種があります。

職種 主な仕事内容 未経験からの入りやすさ
カスタマーサクセス 導入後の顧客が成果を出せるよう、活用支援や定着支援を行う 比較的入りやすい
導入支援(オンボーディング担当) 病院や施設への導入時に、初期設定や操作説明、研修を行う 比較的入りやすい
営業(インサイドセールス・フィールドセールス) 医療機関や施設、企業にサービスを提案する 比較的入りやすい
事業企画・プロダクト企画の補助 現場の声を集めて新機能やサービスの改善案をまとめる 経験や実績が求められることも多い
臨床監修・エビデンス担当 運動プログラムやコンテンツの監修、研究論文の調査、効果検証の設計補助 専門領域や研究経験があると有利
運動指導・コンテンツ制作 オンラインでの運動指導、動画や記事などのコンテンツ作成 サービスによっては募集がある

未経験から目指す場合、まずはカスタマーサクセスや導入支援、営業など、顧客と直接関わる職種から入り、現場の声を社内に届ける経験を積んでから企画職へ広げていく道も考えられます。カスタマーサクセスの仕事内容は、理学療法士からカスタマーサクセスへの転職で詳しく解説しています。

小さな会社ほど役割が広くなりやすい

社員数の少ない企業では、1人が複数の役割を兼ねることがよくあります。たとえば、導入支援をしながら顧客の声を整理して企画会議に出る、展示会で説明を担当しながら資料も作る、といった働き方です。役割が明確に分かれていない分、さまざまな経験を積めるのは魅力ですが、自分で仕事を見つけて動く姿勢が求められます。

ヘルステック企業が理学療法士に期待すること

ヘルステック企業が医療職を採用するとき、主に次のような点を評価しています。

現場の課題を言葉にできること

ヘルステック企業の多くは、エンジニアやビジネス職が中心で、医療・介護の現場を経験した人が限られていることがあります。そのため、「現場では実際に何に困っているのか」「この機能は忙しい病棟で本当に使われるのか」を具体的に伝えられる人は貴重です。

臨床的な妥当性を判断できること

運動プログラムや評価の指標を扱うサービスでは、内容が臨床的に適切かどうかを判断する視点が欠かせません。エビデンスを調べる習慣や、リスク管理の考え方は、サービスの信頼性を高めるうえで役立ちます。

顧客である医療職と同じ言葉で話せること

病院や施設を顧客とするサービスでは、医師、看護師、リハ職などと話す場面が多くなります。専門用語や現場の事情が分かる人は、顧客に安心感を与え、信頼関係を築きやすくなります。

変化を楽しみ、学び続けられること

ヘルステックの領域は、技術も制度も変化が速い分野です。新しいツールや考え方を前向きに取り入れ、分からないことを自分で調べて学べるかどうかも見られています。

臨床からヘルステック企業へ転職するための準備

1. 情報収集で業界の全体像をつかむ

まずは、どのような企業がどのようなサービスを提供しているのかを知ることから始めます。

  • 企業の採用ページやサービス紹介ページを読む
  • 医療・介護系の展示会やオンラインセミナーに参加する
  • 業界ニュースや企業のプレスリリースに目を通す
  • 自分の職場で使っているシステムや機器が、どのように開発・提供されているかを調べる

特に最後の点は、すぐにできる情報収集です。普段使っている記録システムやリハビリ機器を「顧客の立場」から見直してみると、企業側の仕事がイメージしやすくなります。

2. 臨床と並行して小さく学ぶ

いきなり大きな勉強を始める必要はありません。次のような小さな学びを積み重ねるだけでも、面接で語れる材料になります。

  • 表計算ソフトでの集計やグラフ作成に慣れる
  • プレゼンテーション資料を作ってみる(院内勉強会の資料づくりも練習になります)
  • SaaS、KPI、オンボーディングなど、IT企業でよく使われる用語を調べる
  • 興味のあるヘルスケアアプリを実際に使い、良い点と改善点を書き出してみる

3. 職務経歴書で経験を「翻訳」する

ヘルステック企業への応募では、臨床経験をそのまま並べるのではなく、応募先の事業に結びつく形で伝えることが大切です。

例文(職務経歴書の自己PR)

回復期リハビリテーション病棟で6年間、主に運動器疾患と脳血管疾患の患者さんを担当してきました。業務改善委員として、リハビリ実施記録の入力手順を見直し、スタッフへの説明会を開いて新しい運用が定着するまでフォローしました。この経験から、現場で新しい仕組みが使われるためには、機能の良さだけでなく、業務の流れに合わせた導入支援が欠かせないと実感しています。現場の課題を言葉にし、利用者と開発チームの橋渡しをする役割として、御社のサービスの普及に貢献したいと考えています。

※例文の年数や役割は一例です。ご自身の経験に置き換えてお使いください。

職務経歴書の全体の構成は、理学療法士の職務経歴書の書き方で詳しく紹介しています。

4. 志望動機では「なぜヘルステックか」を明確にする

面接では、「臨床でもできることを、なぜ企業でやりたいのか」と問われることがあります。一人ひとりの患者さんを支える臨床に対し、ヘルステックはサービスを通じてより多くの人や現場に関われる点が特徴です。自分の経験のなかで「仕組みで解決したいと感じた課題」を具体的に語れると、説得力が高まります。

ヘルステック転職で知っておきたい注意点

スタートアップの不安定さ

ヘルステック企業には、創業から間もないスタートアップも多くあります。成長の勢いがある一方で、事業の方針転換や組織の変化が起こりやすく、経営状況によっては事業が縮小する可能性もゼロではありません。応募前には、事業の内容や資金調達の状況、事業の継続性について、公開されている情報を確認しておきましょう。

未経験の壁

医療職としての経験は評価されても、ビジネス職としては未経験からのスタートになります。メールや資料作成、会議の進め方など、臨床では使わなかったスキルを一から身につける期間は、思った以上に大変に感じるかもしれません。最初の数か月は学ぶ時期と割り切る心構えが大切です。

年収は企業によって大きく異なる

ヘルステック企業の給与は、企業の規模や成長段階、職種、地域によって差が大きく、未経験での採用では一時的に年収が下がる可能性もあります。比較の目安として、厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」では、「理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士」(4職種の合算)の年収を試算すると約444万円です(理学療法士単独の値ではありません)。また、国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」では、民間の給与所得者の平均給与は478万円となっています。条件を比べる際は、基本給、賞与、手当、評価制度を含めて確認しましょう。年収の考え方は、理学療法士が年収を上げる方法も参考にしてください。

患者さんとの直接の関わりが減る

職種によっては、患者さんや利用者さんと直接関わる機会がほとんどなくなります。サービスを通じて多くの人の役に立てるやりがいがある一方、「目の前の人の変化を見る喜び」を大切にしてきた方は、その変化をどう受け止めるかを事前に考えておくことが大切です。

ヘルステックは理学療法士のキャリアの選択肢のひとつ

内閣府『障害者白書』(令和8年版)によると、理学療法士の資格登録者数は2025年12月末時点で236,289人にのぼります。また、2019年4月の厚生労働省の理学療法士・作業療法士需給分科会では、2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍になるという推計(案)が示されました。資格を持つ人が増えるなかで、臨床以外の場で専門性を活かす道を考えることは、自分のキャリアの選択肢を広げることにつながります。

ただし、ヘルステックへの転職が誰にとっても正解というわけではありません。今の職場で専門性を深める、職場を変えて臨床を続けるといった選択も、十分に価値のあるキャリアです。異業種転職の全体像や他の職種との比較は、理学療法士の異業種転職ガイドで詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。

まとめ

  • ヘルステックは、デジタル技術で医療・介護・健康づくりの課題を解決するサービスや製品の総称
  • リハビリ・介護DX、遠隔モニタリング、予防・運動支援、健康経営支援、医療機器・デジタル医療などは理学療法士の経験と重なる
  • 未経験からは、カスタマーサクセスや導入支援、営業など顧客と関わる職種から入る道がある
  • 企業は、現場の課題を言葉にする力、臨床的な妥当性を判断する力、学び続ける姿勢を評価している
  • 情報収集、小さな学び、職務経歴書での経験の翻訳から準備を始める
  • スタートアップの不安定さ、未経験の壁、年収の変化も理解したうえで判断する

ヘルステックに関心はあっても、自分の経験がどこで活かせるのかは一人では見えにくいものです。リハノビキャリアでは、元理学療法士のアドバイザーが、臨床経験の棚卸しと翻訳から、理想の人生から逆算したキャリアプランづくり、実際の行動まで無料で伴走しています。LINEに登録いただくと、キャリアチェンジ完全ロードマップなど3つの特典と、60分の無料オンライン相談をご利用いただけます。まだ方向性が決まっていない段階でも、気軽にご相談ください。

参考資料